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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)14211号 判決 1984年9月17日

《住所省略》

原告 日本食品株式会社

右代表者代表取締役 福原秀夫

右訴訟代理人弁護士 植草宏一

吉田正夫

吉宗誠一

《住所省略》

被告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 木藤静夫

<ほか二名>

主文

一  被告は、原告に対し、五四一二万七二〇〇円及び内四九二二万七二〇〇円に対する昭和五八年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、原告が一五〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

ただし、被告が四五〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者の地位

(一) 原告は、左記の「一般と畜場」(通例として生後一年以上の牛若しくは馬又は一日に一〇頭をこえる獣畜をと殺し、又は解体する規模を有すると畜場をいう。と畜場法二条三項)を設置し、設立以来今日まで、同と畜場において獣畜のと殺解体を業として営む「と畜業者」(同法二条五項)である。

と畜場番号 第三号

名称 三河島ミートプラント

所在地 東京都荒川区荒川八丁目二〇番五号

設置者 原告

設立年月日 昭和二七年一二月一九日

(二) 被告は、左記の一般と畜場の設置管理者であり、同と畜場において昭和一一年一二月以来今日までと畜業を営んでいる。

と畜場番号 第一号

名称 都立芝浦屠場

所在地 東京都港区港南二丁目七番一九号

設置者 被告

設立年月日 昭和一一年六月一八日

(三) 原告設置のと畜場「三河島ミートプラント」においても、また被告設置のと畜場「都立芝浦屠場」(以下「芝浦屠場」という。)においても、そのと畜場使用料及びと殺解体料(以下、両方を併せて「と場料」という。)の額の決定及び変更については、国の機関たる東京都知事(以下「都知事」という。)の認可を要し、と畜場使用者から右認可額をこえると場料を受領することが禁止されている(と畜場法八条一・二項)。

2  被告の廉売行為と原告への影響

(一) 芝浦屠場におけると場料額及び補助金受入額

(1) 被告は、芝浦屠場において、昭和四〇年度(昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日まで。以下「年度」とは、当該年の四月一日から翌年の三月三一日までの期間を指す。)以降現在に至るまで、大動物(牛・馬)一頭につき、次のとおり都知事より認可を受けたと場料を徴収してきた。

年  次

金  額

昭和四〇年度~昭和五〇年一二月三一日

五〇〇円

昭和五一年一月一日~昭和五三年度

一六五〇円

昭和五四年度~昭和五六年度

二四八〇円

昭和五七年度以降

三四八〇円

(2) 右認可・徴収にかかると場料の額は、いずれも大幅に原価を割ったものであったため、芝浦屠場は、毎年莫大な赤字を生じ、被告は、東京都一般会計から公営企業特別会計の一部である屠場会計に別紙補助金一覧表記載のとおり補助金を支出することによって、赤字を補填してきた。

(二) 三河島ミートプラントにおけると場料の認可額及び実徴収額

(1) 他方、三河島ミートプラントにおいて、昭和四〇年度から現在に至る大動物(牛・馬)一頭あたりのと場料の認可額及び実徴収額は、次のとおりである。

(2) 右認可額の変動は、原告からの認可申請に対してそれぞれ都知事の認可がなされた結果であるが、各認可額とも、原告が原価計算に基づき適正な金額を算出して認可申請をしたにもかかわらず、東京都衛生局長から申請額を下げるよう行政指導を受け、やむなく申請額を大幅に減額訂正したうえで認可されたものである(例えば、昭和五一年一〇月二六日付の認可は、従前の四〇〇〇円から一万三九〇六円に変更する認可申請に対し、八〇〇〇円に減額して認可申請をし直すよう行政指導を受け、これに従った結果なされたものである。)。

年  次

金  額

認可額

実徴収額

昭和四〇年度~昭和四七年一二月二六日

二五〇〇円

一三一〇円

昭和四七年一二月二七日~昭和四八年度

四〇〇〇円

二一〇〇円

昭和四九年度

三三〇〇円

昭和五〇年度

三八〇〇円

昭和五一年四月一日~同年一〇月二五日

四〇〇〇円

昭和五一年一〇月二六日~昭和五三年度

八〇〇〇円

五〇〇〇円

昭和五四年度以降

五八〇〇円

(3) しかしながら、三河島ミートプラントでは、芝浦屠場が右(一)のとおり継続的に大幅に原価を割った低廉なと場料で営業していることから、顧客を確保するためには、右認可額さえもそのまま徴収することができず、右(二)(1)のとおり実徴収額は、認可額を下回らざるをえない状態となっている。

3  廉売行為の違法性

(一) と畜場法一条及び施行通達の趣旨違反

(1) と畜場法一条は、同法の目的が「と畜場の経営及び食用に供するために行う獣畜の処理の適正を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与すること」にある旨を明らかにしているが、この趣旨に鑑みると、と場料額は、

ア 適正なと畜場経営をなさしめるため、原価計算に基づき算出されるべきこと、

イ 食用に供するために行う獣畜の処理の適正化と公衆衛生の向上及び増進の面から、と畜場の設備構造を一定の水準以上に保持改善させることが可能なものであること

ウ したがって、イの規準を充足させる設備構造をもったと畜場を稼動させるために要する諸経費をも原価に算入したうえで、アによる適正なと畜場経営を行いうるに足る額であること

の三つの規準を充足し得る額であることが要求される。

(2) さらに、昭和二八年一〇月六日厚生省発衛第二五〇号各都道府県知事宛厚生事務次官通知「と畜場法の施行に関する件」の記の第3は、右(1)の趣旨を受け、と場料の認可決定基準につき、

「法八条の規定により、新たにと畜場使用料及びと殺解体料は、都道府県知事の認可を要することになったので、すみやかに、料金の認可措置をとるようにされたいこと。認可基準については、と畜場使用料金は、諸経費の原価(原価償却費、水道料、修繕費、人件費、光熱費、消耗品費及びその他の経費)、税金及び一箇月平均(又は年間)収入額、新設と畜場については推定収入額を勘案し、適正な料金を決定されたいこと。と殺解体料については、と畜業者の諸経費の原価(人件費、消耗品費及びその他の経費)、税金及び一日平均(又は一箇月平均)の収入額を勘案し、適正な料金を決定されたいこと。」

以上のとおり通達(以下「施行通達」という。)している。

(3) 被告は、芝浦屠場のと場料について原価に基づいた額の認可申請を怠り、原価割れ営業を継続しているが、これは右と畜場法一条及び施行通達の趣旨に反する。

(二) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反

被告は、芝浦屠場でと畜場事業を行うものとして私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)二条一項にいう「事業者」であり、東京都二三区内において、同じと畜場事業を行う原告と競争関係にあるところ、芝浦屠場は、前記2(一)のとおり、昭和四〇年度以降継続して原価を割ったと場料を徴収して営業されており、しかも、その原価割れの程度が著しく(このことは、右2(一)(2)の補助金の支出額からも明らかであるが、昭和五五年度における芝浦屠場の大動物一頭あたりのと場料についてみてみると、その原価は、別紙原価計算書記載のとおり、少なくとも三万四六一八円となるのに、実際の認可・徴収額は、僅か二四八〇円であるにすぎない。)、これがため、後記(三)のとおり競争業者である原告に重大な被害を及ぼしているのであるから、右被告の営業は、独占禁止法二条九項二号・昭和五七年公正取引委員会告示第一五号不公正な取引方法6(以下「一般指定6」という。)・右改正前の昭和二八年公正取引委員会告示第一一号不公正な取引方法五(以下「旧指定五」という。)にいう「不当廉売」に該当し、同法一九条に違反する。

(三) 原告の営業侵害

三河島ミートプラントは、昭和二七年一二月に東洋一の規模と設備を有する先駆的な近代的と畜場として開設されたが、昭和三〇年度にと畜頭数が大動物につき一万四一八一頭にも及び、その前途は、洋々たるものであった。

しかるに、その後、競争関係に立つ芝浦屠場が前記のとおり長期にわたり原価を大幅に割った営業を継続したために、三河島ミートプラントの営業が次第に圧迫され、と畜頭数も年々減少するとともに、原告の赤字は、累積し、昭和五八年一月三一日現在では、借入金二億三七九四万六七〇四円、未払経費六五七〇万円の合計三億〇三六四万六七〇四円もの負債を抱えるに至り、資金不足から老朽化した設備の補修も思うにまかせず、まさに倒産寸前にまで追い込まれている。

4  因果関係

前記のとおり原告と被告とは競争関係にあり、しかも東京都二三区内には、三河島ミートプラントと芝浦屠場の二つのと畜場しか存在しないのであるから、原告の被った後記7の損害は、被告の芝浦屠場における原価割れ営業に起因するものである。

5  被告の故意

(一) 被告あるいは被告を代表する都知事は、芝浦屠場が昭和四〇年度以降原価を割ったと場料を徴収して営業していること及びこれにより三河島ミートプラントの営業が圧迫され、原告が損害を被っていることを認識していた。

(二) しかるに、被告あるいは被告を代表する都知事は、現在に至るまで原価に基づく適正なと場料額の認可申請をなさず(もっともこの間、前記2(一)(1)のとおり三回と場料変更の認可がなされており、これは、被告の申請によるものではあるが、その額は、右2(一)(2)のとおりいずれもその当時ですら原価を大幅に下回るもので適正を欠き、違法であった。)、漫然と右原価割れ営業を継続して、原告の被損を認容した。

6  被告の責任

(一) 被告が芝浦屠場で原価割れ営業を継続することにより原告に加えた損害は、その設置・管理者である被告を代表する都知事がその職務を行うにつき加えた損害であるから、被告は、原告に対し、民法四四条一項により、これを賠償する責任がある。

(二) あるいは、芝浦屠場における原価割れ営業の継続は、企業体そのものの行為として民法七〇九条の不法行為にあたるから、被告は、原告に対し、これにより生じた損害を賠償する責任がある。

7  損害

(一) 得べかりし利益の喪失

原告は、昭和五一年一〇月二六日、都知事より三河島ミートプラントのと場料を大動物一頭あたり八〇〇〇円とする認可を受けたが、既述のように被告が芝浦屠場において違法な原価割れ営業を継続したため、原告は、被告との競争関係から認可額どおりのと場料を徴収することができず、やむなく実徴収額を下げ、昭和五四年四月一日以降大動物一頭あたり五八〇〇円を徴収するにとどめざるをえなかった。

しかし、被告が芝浦屠場において原価計算に基づいた適正な額のと場料をもって営業していれば、原告は、三河島ミートプラントにおいて右認可額全額を徴収し得たというべきであるから、原告は、昭和五四年四月一日から昭和五八年一二月二日に至るまで、左記のとおり三河島ミートプラントでと畜解体した大動物の合計二万二三七六頭につき、一頭あたり右認可額と実徴収額との差額である二二〇〇円の割合で算定した四九二二万七二〇〇円相当の得べかりし利益を喪失したことになる。

年  次

大動物と畜頭数

昭和五四年度

五六七六頭

昭和五五年度

五一六五頭

昭和五六年度

四三三〇頭

昭和五七年度

四五七八頭

昭和五八年四月一日~

同年一二月二日

二六二七頭

(合計)

二万二三七六頭

(二) 弁護士費用

原告は、昭和五六年一一月一六日原告訴訟代理人三名に本訴提起を依頼し、その費用・報酬として第一審判決言渡時に認容額の一割に相当する金員を支払う旨約したので、右(一)の損害額四九二二万七二〇〇円の約一割に相当する四九〇万円が弁護士費用となる。

8  よって、原告は、被告に対し、前記7(一)及び(二)の合計五四一二万七二〇〇円及びこれより弁護士費用を控除した残四九二二万七二〇〇円に対する本件不法行為の後である昭和五八年一二月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)について、三河島ミートプラントの設立年月日を除き、その余の事実は、認める。三河島ミートプラントの設置が許可されたのは、昭和三八年五月二七日である。

(二) 同1(二)及び(三)の事実は、認める。

2(一)  同2(一)の事実は、認める。

(二) 同2(二)について、(1)のうち三河島ミートプラントのと場料実徴収額は、不知、その余の(1)の事実及び(2)の事実は、認め、(3)の事実は、不知。

3(一)  同3(一)について、(1)のうち、と畜場法一条に規定する同法の目的が原告主張のとおりであることを認め、その余は、争い、(2)の施行通達の存在は、認め、(3)は、争う。

(二) 同3(二)のうち、被告が独占禁止法二条一項にいう「事業者」であり、東京都二三区内において原告と競争関係にあること、芝浦屠場が昭和四〇年度以降継続して原価を割ったと場料を徴収して営業されていること及び別紙原価計算書中の昭和五五年度の芝浦屠場のと畜頭数及び経費額並びに土地の地価は、認め、その余は争う。

(三) 同3(三)の事実は、不知。

4  同4のうち、原告と被告とが競争関係にあること及び東京都二三区内には、三河島ミートプラントと芝浦屠場の二つのと畜場しか存在しないことを認め、その余は、争う。

5  同5のうち、被告あるいは都知事が昭和四〇年度以降芝浦屠場が原価を割ったと場料を徴収して営業されていることを認識していたことは、認め、その余の事実を否認する。

6  同6は、争う。

7(一)  同7(一)について、原告が昭和五一年一〇月二六日都知事より三河島ミートプラントのと場料を大動物一頭あたり八〇〇〇円とする認可を受けたこと及び三河島ミートプラントにおける昭和五四年四月一日から昭和五八年一二月二日までの大動物と畜頭数が各年次とも原告主張のとおりであって合計二万二三七六頭であることを認め、その余の事実は、不知。

(二) 同7(二)のうち、原告がその主張の日に原告代理人三名に本訴提起を依頼したことを認め、その余の事実は、不知。

三  被告の主張

1  廉売行為の違法性について

(一) と畜場法一条及び施行通達の趣旨

と畜場法には、と場料について都道府県知事の認可が必要であり、認可額以上のと場料を徴収してはならない旨の規定は存するが(同法八条一、二項)、と場料の金額自体を規制する規定は、存しない。また、原告の引用する施行通達も、要するに、都道府県知事に対して、と場料を認可する場合には、適正な額で認可すべきであるとしているにすぎず、と畜場の営業を規制するものではないのみならず、その趣旨も高額のと場料を規制するところにあり、低廉なと場料を禁止する趣旨ではない。したがって、被告が芝浦屠場において原価を割ったと場料を徴収しても、そのことがと畜場法や施行通達に違反することにはならない。

(二) 独占禁止法違反について

(1) 芝浦屠場は、地方公共団体である被告がその行政施策の一環として、食肉の確保及び安定供給という公益目的のために営業しているもので、原告のような私企業が利潤追求の目的から行うと畜場の営業とは本質的に異なるものである。したがって、公益を目的とする芝浦屠場の営業により原告が被害を受けたとしても、独占禁止法の適用はなく、不法行為となることもない。

(2) 仮に、芝浦屠場の営業に独占禁止法の適用があるとしても、芝浦屠場におけると場料が原価を割った低額であるのは、同屠場の集荷量を確保することにより、都民に対して食肉を大量に、かつ、安定した小売価格で供給するという行政施策上の公益目的によるものであって、仮に原告主張の高額なと場料を徴収したとすれば、と場料が生産者負担の経費とされていることから、生産者の利益の減少をもたらし、生産者は、生産意欲が減退するとともに、と場料の低廉な他のと畜場を利用するようになるため、芝浦屠場への生畜の集荷量が減少し、ひいては需給のバランスが崩れて、小売価格の高騰、消費者負担の増大を招くことになる。したがって、芝浦屠場が原価を割った低廉なと場料で営業していることには、正当な理由があるというべきである。

(3) 都道府県知事によると場料の認可は、行政処分であるから、権限ある行政官庁によって取消されない限り適法の推定を受け、認可を受けたものは、これに拘束されるため、被告としては、認可額をこえる料金を徴収することができないのはもとより、芝浦屠場においては、東京都立芝浦屠場条例・同条例施行規則により認可額どおりのと場料を徴収すべきことが定められているので、民営と畜場のごとく認可額を下回る額を徴収することもまたできないのであるから、被告は、認可額どおりのと場料を徴収して芝浦屠場の営業をすることを法的に義務付けられているというべく、したがって、この義務の履行としての営業が、不当廉売として違法となることはない。

(4) 独占禁止法上の不当廉売は、行為者において対価を自由に設定しうることを前提として成立すると解されるところ、芝浦屠場のと場料は、国の機関たる都知事の認可によって決定されるものであり、被告はこれを増額すべく認可申請をするには、東京都卸売市場審議会に諮問し、その答申を得たうえで、東京都議会(以下「都議会」という。)の議決を経由しなければならず、そのうえ、申請しても申請額が認可されるか否かは不明なのであるから、被告の意思でこれを自由に設定しうるものではない。したがって、芝浦屠場の営業が独占禁止法上の不当廉売にあたることはない。

(5) 独占禁止法上の不当廉売は、対価が不当に低いことに加えて他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること(公正競争阻害性)が要件となるところ、と畜場のと場料は、都道府県知事の認可によって決定されるのであるから、と畜場事業においては、事業者相互間の自由な価格競争は、制度上存在しえず、したがって、と畜場の営業は、不当廉売の要件たる公正競争阻害性を欠くことが明らかである。

(6) また、実態的にみると、と畜場事業は、ほぼ全国的な競争関係にあり、公営と畜場のと場料が民営と畜場のそれと比較して低額であるのは全国的な傾向であって、しかも公営と畜場の中には、芝浦屠場のと場料よりも低額で営業しているものも多数存在しているから、芝浦屠場の営業が全国的な規模での公正競争を阻害しているとは考えられない。

2  因果関係について

(一) 被告が原価割れ営業を回避するために、原告主張のとおり原価計算に基づいたと場料増額の認可申請をしたとしても、国の機関たる都知事の認可が得られるとは限らないのであるから、芝浦屠場における廉売行為と原告が主張する逸失利益との間には、因果関係がない。

(二) 前記のとおり、と畜場事業は、ほぼ全国的な競争関係にあり、芝浦屠場より低い料金で営業していると畜場も多数存在するのであるから、原告が認可額を下回ると場料しか徴収しえないのは、ひとり芝浦屠場が低額のと場料で営業していることに起因するものではない。

3  被告の故意について

被告及び都知事は、昭和四〇年度以降芝浦屠場のと場料が原価を割っていることを認識していたが、右と場料は、前記のとおり東京都卸売市場審議会への諮問・答申及び都議会の議決を経たうえ、国の機関たる都知事の認可により決定されるものであるから、被告あるいはその代表者たる都知事としては、自らの意思で原価割れ営業を是正することは、不可能というべく、したがって、右営業継続による原告の被損を認容していたものではない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張1(二)(1)について

芝浦屠場は、法令により特別な地位あるいは権能を付与されたものではなく、三河島ミートプラントと同じくと畜場法によって規律される一つの企業体たると畜場にすぎないから、行政施策を行使し得る主体となり得るものではなく、行政施策上の公益目的をもって独占禁止法の適用を免れるものではない。

2  同1(二)(2)について

芝浦屠場において原価計算に基づいたと場料を徴収することにより、同屠場の集荷量が減少し減収を招いたとしても、それは、単に芝浦屠場という一企業の利益に関する問題にすぎないから、集荷量確保の目的が原価割れ営業の違法性を阻却するものではない。

しかも、実際には、芝浦屠場のと場料が引上げられれば、他のと場料も連動してと場料を引上げることが予想され、と場料の増額分は、生産者の生産・出荷コストの中に反映されるにすぎないから、生産者に帰属する利益額に変化はなく、したがって、生産者の生産意欲が減退する余地もないうえ、各地のと畜場の処理頭数には限界があること、他のと畜場を利用した場合の冷凍・梱包・運送コストの方がと場料引上げによるコスト増よりもはるかに大きいこと及び芝浦屠場と食肉市場との場所的機能的一体性等を考えれば、芝浦屠場のと場料の増額が同屠場の集荷量に影響を及ぼすことはありえない。また、芝浦屠場のと場料が仮に大動物一頭あたり三万円に引上げられても、計算上は末端小売価格を一・三ないし一・六パーセント程度引上げることになるにすぎないうえ、この程度の価格上昇は、現実には、食肉の複雑な流通過程の中で吸収されてしまうので、小売価格への影響は殆んどないと考えられる。

3  同1(二)(3)について

被告が認可額どおりと場料の徴収を法的に義務付けられていても、右認可額を適正額まで増額すべく変更申請をすれば、後記4のとおり原価割れ営業を回避することができるのであるから、右法的義務履行のゆえに違法性が阻却されるものではない。

4  同1(二)(4)・2(一)・3について

被告が芝浦屠場のと場料変更認可申請をなすまでの内部手続として東京都卸売市場審議会の諮問・答申及び都議会の議決を経由しなければならないと定めても、これらは被告自らが定めた意思決定手続であるうえ、審議会の答申は、単なる参考意見であって何ら拘束力を有するものではなく、都議会は、まさに被告の内部機関にすぎないのであるから、そのような内部手続の制約があるからといって、原告に対する関係で、芝浦屠場の原価割れ営業につき、その行為の違法性ないし被告の有責性が阻却されるものではない。

また、と場料の変更は、国の機関たる都道府県知事の認可を要するが、この認可は、認可権者が職権的に行うものではなく、と畜場の設置者又は管理者(芝浦屠場の場合は、いずれも被告自身である。)の申請を待って行うのであって、認可額は、申請者において定めることになっており、認可権者には、申請額が妥当であるか否かの判断権があるにとどまり、申請額を上回る額あるいは下回る額をもって認可する権限はない(と畜場法八条一項)。すなわち認可権者としては、適正な額を定めたと場料変更の認可申請があれば、これを認可せざるをえないのである。

したがって、被告が適正な原価計算に立ってと場料の額を定め、その認可申請をしたにもかかわらず不認可とされたことがあるならば、被告の主張にも一理はあるが、昭和四〇年度以降今日に至るまで被告がかかる適正な額を定めた認可申請をしたことは一度もなく、驚くことに、昭和三二年にと場料が改定された後(大動物一頭につき五〇〇円)、被告が変更申請したのは、一八年後の昭和五〇年と昭和五四年及び昭和五七年の三回にすぎず、その三回とも著しく原価割れした低額を定めて認可申請をしているのである(前記一2(一)参照)。

結局、被告は、適正な額を定めたと場料変更申請をなせば、容易に原価割れ営業を回避しえたにもかかわらず、あえてこれをなさずに、その責任をと場料の認可権を有する国に転嫁しようとするものである。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者の地位

請求原因1の事実は、三河島ミートプラントの設立年月日を除き、当事者間に争いがない。

ところで、《証拠省略》によると、三河島ミートプラントは、昭和二七年一二月二〇日、日本糧穀株式会社が三河島屠場の名称で設置し営業を開始したと畜場であって、昭和三一年五月三〇日に日本糧穀株式会社は、株式会社三河島ミートプラントと商号を変更し、その頃、三河島屠場も三河島ミートプラントと名称を変更したこと、さらに、昭和三八年四月、株式会社三河島ミートプラントより原告に対して、三河島ミートプラントにおけると畜場営業の一切が譲渡され、同年五月二七日付をもって都知事より右営業譲渡に伴う新たな設置許可がなされ、今日に至っていることが認められる。

二  被告の廉売行為と原告への影響について

1  請求原因2(一)(芝浦屠場におけると場料額及び補助金受入額)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2(二)(三河島ミートプラントにおけると場料の認可額及び実徴収額)の事実のうち、三河島ミートプラントのと場料実徴収額を除いたその余の(1)の事実及び(2)の事実は、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、三河島ミートプラントのと場料実徴収額は、原告主張のとおりの各金額であったことが認められ、(3)の事実については、後記四で検討した結果に《証拠省略》を総合して認めることができる。

三  廉売行為の違法性について

1  競争関係

被告が独占禁止法二条一項にいう「事業者」であり、原告と競争関係にあること及び東京都二三区内には、芝浦屠場と三河島ミートプラントの二つのと畜場しか存在しないことは、当事者間に争いがない。

2  廉売の程度

芝浦屠場が昭和四〇年度以降継続して原価を割ったと場料を徴収して営業されていることは、当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実及び前記二1の事実に、《証拠省略》を総合すれば、芝浦屠場は、都有地である広大な敷地(敷地面積については、争いがあるがひとまず措く。)を無償で使用するという有利な事情がありながら、昭和四〇年度以降(昭和三九年度以前はさて措く。)毎年莫大な赤字を生じ、一般会計から任意補助金の補填を受けてきたが、補助金額は、年々増大する傾向にあって、昭和四〇年度には一億五〇七八万五〇〇〇円であったものが、昭和五四年度には一六億九四二四万七〇〇〇円、昭和五五年度には三一億三七〇〇万円という巨額なものになっていること、芝浦屠場の収入のほとんどを占めると場料収入は、最近では同屠場の経常的経費の二〇パーセント程度にしかなっておらず、人件費すら賄えない状態であること、ちなみに、昭和五五年度の補助金額三一億三七〇〇万円を同年度の大動物換算総と畜頭数一六万七五五八頭(この頭数は、当事者間に争いがない。)で除することにより大動物一頭あたりの補助金額を単純計算してみても、一万八七二一円となるのに対し、同年度の大動物一頭あたりのと場料額は、二四八〇円にすぎないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、芝浦屠場におけると場料につき、能率的な経営の下における適正な原価の額及びこの点に関する原告主張の計算方法の当否を判断するまでもなく、芝浦屠場は、昭和四〇年度以降継続して著しく右原価を割ったと場料を徴収して営業されていたことが明らかである。

3  原告の営業侵害

《証拠省略》によれば、三河島ミートプラントは、昭和二七年の設置当初においては、食肉衛生上東洋一の構造・設備及び運営方法を備え、と畜頭数についても芝浦屠場と比べて遜色のないと畜場であったが、その後、競争関係に立つ芝浦屠場のと場料が低額に終始し(とくに昭和三二年から同五〇年まで、一八年間も据え置かれていた。)それとの格差が広がるにつれて、三河島ミートプラントのと畜頭数は、減少し、これを大動物についてみれば、年間と畜頭数につき、昭和三〇年代には一万頭から二万頭(平均約一万四〇〇〇頭)であったものが、昭和五〇年代(昭和五〇年度から昭和五七年度)には四〇〇〇頭から八〇〇〇頭(平均約五三〇〇頭)へと三分の一近くに減少してしまい、そのために、原告の赤字は、増大し、昭和五五年度決算においては、六六二〇万二四一五円の欠損を計上し(累積欠損は、一億七〇二一万八二二〇円)、借入金一億四四五三万八七三二円(これは、原告代表者個人が金融機関から借入れて原告に貸付けたもの)。水道料金等の未払金四七四七万一八九七円等の合計一億九八八〇万九七五六円に及ぶ負債を抱えるようになったこと、右のとおり、原告は、赤字経営を続け、水道料金の未払いがあるために東京都水道局より何度も停水の警告を受け、現に一部停水されているし、資金不足から老朽化した施設の補修・改善もままならず、東京都食肉衛生検査所から施設改善の通知を受けながら、暫定的な応急措置しか採ることができない状況に追い込まれていること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

4  被告の主張について

(一)  被告は、芝浦屠場が公益目的で営業されていることをもって、同屠場の廉売行為には独占禁止法の適用がなく(被告の主張1(二)(1))、仮に適用があるとしても、廉売行為について「正当な理由」(一般指定6参照)がある(同1(二)(2))、と主張する。

(1) 確かに、芝浦屠場は、地方公共団体である被告によって設置・管理され、もっぱら公益を目的として営業しているもので、私企業のごとく利潤追求を目的としているものではないが、独占禁止法にいう「事業」とは、なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反覆継続して受ける経済活動をいい、営利を直接の目的とすると否とを問わないというべきであるから、と畜場事業のごとく取引社会における経済活動として行われる行為が、抽象的な公益目的のゆえに事業性を失うものでないことはいうまでもなく、現に、被告は、芝浦屠場でと畜場事業を行うものとして、独占禁止法上の「事業者」であることを自認しているのである。同屠場の廉売行為に同法の適用がない旨の被告の主張は、採用の限りでない。

(2) そこで、被告が廉売行為の正当な理由として主張する具体的な公益目的、すなわち芝浦屠場への集荷量を確保することにより、都民に対して食肉を大量に、かつ、安定した小売価格で供給するという政策目的について、検討する。

まず、《証拠省略》によれば、芝浦屠場は、昭和四一年一二月以降東京都中央卸売市場の付属機関として運営され、全国的な食肉流通機構のなかにあって重要な役割を担っていることが認められる。そして、証人赤羽朝秀、瀬田競及び阿久津政信は、一致して、芝浦屠場のと場料が大幅に増額されれば、生産者の生産意欲が減退するので、同屠場への集荷量の減少を招き、ひいては都民に対する小売価格の高騰をもたらすおそれがある旨を供述しているが、右各供述は、いずれもが自己の推測に基づく一般的な意見にすぎないところ、その前提となると場料増額の限度が明らかでなく、右意見を裏付ける客観的資料もないので、次の説示にも照らして採用し難く、他に、右被告主張にかかる政策目的の実効性につき、これを証明するに足る資料は一切提出されていない。

すなわち、《証拠省略》によれば、食肉の流通過程において、第一次加工費たると場料は、被加工物である生畜の生産者卸売価格に比べてごく少額であること(和牛を例にとれば、生畜一頭の生産者卸売価格は、平均約七〇万円であるから、と場料の卸売価格に占める比率は、と場料が三河島ミートプラントの認可額たる八〇〇〇円であれば約一・一パーセント、原告が主張する芝浦屠場の原価計算に近い三万円であるとしても、四・三パーセント未満であるにすぎない。)及び昭和三〇年以降における芝浦屠場のと場料の増額(昭和五一年一月には、三倍以上の値上げがあった。)と同屠場のと畜頭数の増減との間には、何ら相関関係がないことが認められ、右認定事実によれば、特段の事情のない限り、芝浦屠場のと場料の増額が生産者の生産意欲(それは、出荷頭数に影響する。)を減退させるものとはいえないところ、右特段の事情については、何らの主張・立証がない。

また、右認定の事実に加えて、各地のと畜場の処理頭数に限界があること(なお、と畜場の設置許可申請をする際には、と畜場法施行規則一条一項四号により、処理する獣畜の種類及びその一日当りの頭数を申請書に記載しなければならない。)、芝浦屠場外のと畜場でと畜解体した枝肉を東京都中央卸売市場食肉市場に搬入するには、当然、冷凍・梱包及び運送等のコストが余計にかかること及び右食肉市場と芝浦屠場との場所的機能的一体性をも考え合わせるならば、芝浦屠場のと場料の増額により同屠場の集荷量が減少することもまた、特段の事情のない限り認めがたいというべく、右特段の事情の主張・立証はない。

さらに、《証拠省略》によれば、食肉は、流通過程における中間経費が大きいため、小売価格に占めると場料の割合が極めて小さいこと(同じく和牛を例にとれば、生畜一頭が小売用の肉になるまでの中間流通経費は、約一三〇万円前後もかかり、小売価格は、生産者卸売価格の約三倍にもなるため、と場料の小売価格に占める比率は、と場料が三河島ミートプラントの認可額たる八〇〇〇円であれば約〇・四パーセント、原告が主張する芝浦屠場の原価計算に近い三万円であっても約一・五パーセントであるにすぎない。)、と場料の低額な芝浦屠場でと畜解体され出荷された肉も、と場料の高額な三河島ミートプラントでと畜解体され出荷された肉も、ともに小売価格においては差がないこと(このことは、芝浦屠場のと場料を低額に抑制していることが消費者価格に反映せず、同屠場を足場とする中間業者を利する結果となっていることを窺わせる。)及び昭和三〇年以降における芝浦屠場のと場料の増額と東京都二三区内の食肉の小売価格の上昇とは、まったく連動していないことが認められ、右認定事実によれば、特段の事情のない限り、芝浦屠場のと場料の増額が小売価格あるいは消費者物価に影響を及ぼすものとは認めがたいところ、右特段の事情についての主張・立証もないのである。

したがって、芝浦屠場の廉売行為について、正当な理由があるとする被告の主張は、前提事実の立証がないというべく失当である。

(3) なお、芝浦屠場の営業が公営企業であるところから、と場料の決定に際して、原価主義のほかに公共性を考慮することが許されるとしても、現行のと畜場法では、従来の公営優先制が廃止されているのであるから(この立法経緯については、《証拠省略》によって認めることができる。)、民営企業の経営を圧迫しその存続を危くさせるような独占禁止法違反の競争を招く料金であってはならないのである。

(二)  次に、被告は、芝浦屠場においては、認可額どおりと場料を徴収して営業することが法的に義務付けられているから、その営業が廉売行為であるとしても違法性はないと主張する(被告の主張1(二)(3))。

なるほど芝浦屠場がと畜場法八条二項、東京都芝浦屠場条例三条一項及び同条例施行規則五条により認可額を上回ると場料も下回ると場料もともに徴収しえないことは明らかである。しかしながら、本件において原告は、芝浦屠場が低廉なと場料の増額認可申請をすることなく原価割れ営業を継続していることをもって違法であると主張しているのであり、しかも、被告の申請により認可額の増額が可能であることは、後記(三)のとおりであるから、被告の右主張は、失当というべきである。

(三)  また、被告は、独占禁止法上の不当廉売は、行為者において対価を自由に設定しうることを前提とするところ、芝浦屠場のと場料は、被告の意思で自由に設定しうるものではないから、同屠場の営業が不当廉売にあたることはないと主張する(被告の主張1(二)(4))。

そして、被告が芝浦屠場のと場料を増額するには、東京都卸売市場審議会への諮問・答申及び都議会の議決を経て、国の機関たる都知事に認可申請し、その認可を受けなければならないことは、東京都卸売市場審議会条例・東京都芝浦屠場条例・と畜場法八条一項に規定するところであり、《証拠省略》によれば、現に昭和四二年、被告の事務担当部局(中央卸売市場管理部企画課)において、と場料を増額すべく都議会に東京都芝浦屠場条例の改正案を提案したが否決された例もあることが認められる。しかしながら、被告が芝浦屠場のと場料認可申請の手続として、条例をもって右審議会への諮問・答申及び都議会の議決を経由しなければならない旨を定めても、これは、被告自らが定めた意思決定手続であるから、そのような内部手続の制約をもって、競争業者たる原告への抗弁となしうるものではない。

また、国の機関たる都知事の認可を要する点についても、認可の対象たると場料の額を決定するのは芝浦屠場の設置・管理者である被告であって、国の機関たる都知事ではなく、右都知事は、申請された金額に対する認可の可否を決するにすぎず(と畜場法八条一項、修正認可は認められていない。)、被告が予めと場料の適正変更額を定めて認可申請をすれば、認可額の変更も可能となるのであるから(後記四2をも参照)、被告にと場料設定の自由がないといえるものではない。

したがって、被告の右主張も、また失当である。

(四)  さらに、被告は、料金認可制がとられていると畜場事業においては、自由な価格競争は存在せず、公正な競争を阻害することもありえないと主張する(被告の主張1(二)(5))。

確かに、と畜場事業は、料金認可制が採られており、その限りで価格競争が制限を受けることはいうまでもないが、認可制のもとにおいても、と場料の認可額は、前記(三)のとおりと畜場事業者の自主的判断に基づいて変更される可能性があり、さらに、認可額を超えない範囲では、と場料につき価格競争の存することは明らかであるから、競争原理の働く余地があるというべく、それ故、料金認可制を理由に公正競争阻害性を欠くとの被告の主張は、採用できない。

(五)  加えて、被告は、と畜場事業は、ほぼ全国的な競争関係にあり、公営と畜場のと場料が民営と畜場のそれと比較して低額であるのは全国的な傾向であるうえ、公営と畜場の中には、芝浦屠場よりも低額なと場料で営業するものも多数存在しているから、芝浦屠場の営業が全国的規模での公正競争を阻害するものではないと主張する(被告の主張1(二)(6))。

なるほど、《証拠省略》によると、全国的に見れば、公営と畜場の中には、芝浦屠場より低額なと場料で営業しているところもあることが認められる。

しかしながら、右被告主張の前提となる全国的な競争関係の存在については、これを認めるに足りる的確な証拠がない。すなわち、前記(一)(2)で述べた各地のと畜場における処理頭数の限界・各地から枝肉を東京都中央卸売市場食肉市場に出荷するためのコスト増及び右食肉市場と芝浦屠場との場所的機能的一体性等の諸条件を考慮するならば、芝浦屠場のと場料と各地のと畜場のそれとの間に、右諸条件による格差を度外視できるほどの値幅があれば格別、そのような事情の立証がない本件において、全国的な競争状況を生じているものとは認めることができない。したがって、冒頭で認定した芝浦屠場外の低額なと場料の存在も、東京都二三区内における原・被告間の競争関係に影響を及ぼすものではないというべく、この意味で、右被告の主張も採用できない。

5  まとめ

以上1ないし4で検討したところによれば、被告は、昭和四〇年度以降芝浦屠場において、正当な理由がないのに(4(一)(2)、(二)参照)、原価を著しく下回ると場料を徴収して原価割れ営業を継続し(2参照)、競争関係(1、4(四)(五)参照)に立つ三河島ミートプラントにおける原告の事業活動を困難にさせた(3参照)ものであるから、被告の右原価割れ営業の継続(その回避可能性については、4(三)及び後記四2参照)は、明らかに独占禁止法二条九項二号・一般指定6(これは、旧指定五前段を改正して明確化したもので、その趣旨は、右旧指定と変わりないものと解される。)にいわゆる「不当廉売」に該当し、同法一九条に違反する違法なものといわなければならない。

四  因果関係について

1  前記三1のとおり原・被告間に競争関係の存することは、当事者間に争いがない。

2  しかし、被告は、原告の主張するとおりと場料増額の認可申請をしたとしても、国の機関たる都知事の認可が得られるとは限らないから、芝浦屠場における廉売行為と原告が主張する逸失利益との間には、因果関係がないと主張する(被告の主張2(一))。

そこで、考えるに、本訴において、原告が請求する逸失利益は、昭和五四年四月一日以降における三河島ミートプラントの大動物一頭あたりのと場料認可額八〇〇〇円と実徴収額五八〇〇円との差額であるから、被告が指摘する因果関係の判断にあたっては、被告において、右時期における芝浦屠場の大動物一頭あたりのと場料を少なくとも三河島ミートプラントと同額の八〇〇〇円とする増額の認可申請をしたときに、国の機関たる都知事の認可が得られるか否かを検討すればよいわけである。

ところで、と畜場法八条一項は、と場料の額の認可権を都道府県知事に与えているが、その権限行使の要件及び効果については、予め額を定めた申請がなされることを前提とするほかに明示の定めがないので、右知事の裁量に委ねているものと考えられる。しかし、右知事の裁量といえども、その不行使が著しく合理性を欠くときには違法となるというべきであるから、以下には、この見地から検討を進める。

まず、と場料の認可基準について、(一)原告が引用する施行通達(請求原因3(一)(2))は、と畜場法一条の趣旨を具体化して、原価主義を原則とする旨を明らかにしているが、芝浦屠場の経営は、地方財政法上の公営企業として、その面からも、原則として独立採算(能率的な経営のもとにおける適正な原価主義)が建前とされており(同法六条・同法施行令一二条)、(二)と畜場の経営及び食用獣畜の処理の適正を図ると畜場法一条の目的からして、他のと畜場事業者(そのと畜場の設置については、既に都道府県知事の許可を受けた立場にある。同法三条一項)との間に不当な競争(独占禁止法違反の競争が、これに該当することはいうまでもない。)をひきおこすおそれがない料金であることを要する(前記三4(一)(3)をも参照)のである。

本件において、前記三で検討したところによれば、芝浦屠場のと場料の額が、昭和五四年度以降はもちろんそれ以前においても、長期間右に述べた認可基進の(一)及び(二)に反するものであったことは明らかであり、そのために、競争関係に立つ三河島ミートプラントにおける原告の営業が、重大な被害を受けたものである。右原告の被害を回避するための適切な方法として考えられるのは、芝浦屠場のと場料を公正な競争の可能な金額に増額することであって、仮に、これが昭和五四年度以降八〇〇〇円に増額されていたとするならば、本訴において原告が主張する逸失利益は、生じなかった筈である。ところで、右八〇〇〇円の金額は、前記三2の説示によるならば、芝浦屠場のと場料として、なお、大幅に原価を割るものであり、前叙の認可基準(一)に反するものといわなければならないが、それは、三河島ミートプラントにおける認可額と同額なのであるから、原告に対する関係で、右認可基準(二)に反するものでないことは明らかである。そして、右八〇〇〇円の増額認可の申請に対し、原価を割る低額なことを理由に不認可とするならば、より低額で、かつ、不当な競争(それは、前記三5のとおり独占禁止法に違反する不当廉売である。)をも招く従前の料金を放置する結果となり、ひいては、原告に前記被害を及ぼすことになることを留意すべきところ(と場料の認可制は、元来、最高額を制限するものである。と畜場法八条二項)、その間の事情を、認可権者たる都知事は、芝浦屠場の設置・管理者たる被告の代表者でもあるので、後記五の説示に照らし、容易に知りえたものというべきである。

そうとするならば、右のような事情のもとで、被告が芝浦屠場の大動物一頭あたりのと場料につき、これを昭和五四年四月一日以降三河島ミートプラントの認可額と同額の八〇〇〇円に増額する認可申請をしたのに対して、国の機関たる都知事がこれを認可しないとすれば、右都知事の裁量権の不行使は、著しく合理性を欠くものとして違法となるを免れないと解すべきであるから、この場合、右都知事は、右申請どおり増額の認可をすべく義務づけられるわけである(なお、本訴において、このように判断することが、処分行政庁の第一次的判断権を侵すものではなく、当然許されることについては、最高裁判所昭和五六年二月二六日判決・判例時報九九六号四二頁参照)。そして、右義務が履行されれば、原告主張の逸失利益は生じないのであるから、この点に関する被告の主張は、採用しえない。

3  さらに、被告は、と畜場事業が全国的な競争関係にあることを前提として、原告が認可額を下回ると場料しか徴収しえないのは、ひとり芝浦屠場が低廉なと場料で営業していることに起因するものではないと主張するが(被告の主張2(二))、と畜場事業が全国的な競争関係にあることを認めるに足りる証拠がないことは、前記三4(五)のとおりであるから、右主張も、また理由がない。

4  右で検討したところによれば、芝浦屠場の原価割れ営業の継続と原告が主張する逸失利益との間には、因果関係が認められるというべきである。

五  被告の故意について

請求原因5のうち、被告あるいは被告を代表する都知事が昭和四〇年度以降芝浦屠場のと場料が原価を割っていることを認識していた点については、当事者間に争いがなく、さらに、これにより三河島ミートプラントの営業が圧迫され、原告が損害を被っていることをも認識していた点については、《証拠省略》により認定することができる。

そして、昭和四〇年度以降芝浦屠場のと場料認可額が増額されたのは、昭和五一年、昭和五四年及び昭和五七年の三回にすぎないことは当事者間に争いがなく、右増額された認可額でさえ、いずれも原価を著しく下回るものであったことは、前記三2で認定したとおりであるから、被告あるいはその代表者である都知事は、芝浦屠場の原価割れ営業により、競争関係に立つ三河島ミートプラントの営業が侵害され、原告が損害を被っていることを認識しながら、これを適切な対策を講じることもなく認容したものというべきである。

もっとも、被告は、芝浦屠場のと場料は、東京都卸売市場審議会への諮問・答申及び都議会の議決を経たうえ、国の機関たる都知事の認可により決定されるのであるから、被告あるいはその代表者たる都知事が自らの意思で原価割れ営業を是正することは、不可能であったと主張しているが(被告の主張3)、右主張の採用しがたいことは、前記三4(三)のとおりである。

六  被告の責任

以上によれば、被告が芝浦屠場における不当廉売の継続により原告に加えた損害は、芝浦屠場の設置・管理者である被告を代表する都知事がその職務を行うにつき加えた損害というべきであるから、被告は、原告に対し、民法四四条一項により、後記七の損害を賠償する責任がある。

七  損害

1  得べかりし利益の喪失

原告が昭和五一年一〇月二六日国の機関たる都知事より三河島ミートプラントのと場料を大動物一頭あたり八〇〇〇円とする認可を受けたことは、当事者間に争いがなく、原告が被告の芝浦屠場における不当廉売の継続により右認可額どおりのと場料を徴収することができず、昭和五四年四月一日以降やむなく大動物一頭あたり五八〇〇円を徴収してきたことは、前記二2で認定したとおりである。

そして、被告が同日以降芝浦屠場において、少なくとも三河島ミートプラントの認可額と同額である八〇〇〇円のと場料をもって営業していれば(それが可能であったことは、前記四2のとおりである。)、原告が現実のと畜頭数を下回らない頭数につき、右認可額どおりのと場料を徴収しえたことは、事柄の性質上明らかであるから、昭和五四年四月一日から昭和五八年一二月二日までの三河島ミートプラントにおける大動物総と畜頭数二万二三七六頭(この頭数は、当事者間に争いがない。)に前叙認可額と実徴収額との一頭あたりの差額である二二〇〇円を乗じた四九二二万七二〇〇円が原告の被った損害というべきである。

2  弁護士費用

原告がその主張の日に弁護士である原告訴訟代理人に本訴提起を依頼したことは、当事者間に争いがないから、原告は、その費用を支払うべき債務を負担したものと認められるところ、本件事案の難易、審理経過及び認容額等諸般の事情を総合して考えると、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、原告主張のとおり四九〇万円と認めるのが相当である。

八  結論

以上のとおり、原告の請求は、すべて理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言及びその免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤邦夫 裁判官 河合治夫 裁判官深山卓也は、転補につき署名・押印できない。裁判長裁判官 佐藤邦夫)

<以下省略>

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